あいち相続あんしんセンターの解決事例

借金がある遺産を相続する?遺産分割と相続放棄の選択肢

相続手続き 相続放棄

相続では、遺産に含まれるプラスの財産だけでなく、マイナスの財産(債務)も承継しなければなりません。これは、借金の返済義務も相続人に引き継がれるためです。しかし、負債が多い場合、どのように対応すべきか迷う人も少なくありません。

この記事では、借金が含まれる相続の具体的な取り扱い方を解説します。相続放棄や限定承認といった選択肢を含め、家族や債権者との関係を円滑に進めるためのポイントも紹介します。

1. 相続における債務とは?借金も相続の対象になる理由

借金も「遺産」に含まれる法律上の理由

相続財産には、預金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金(債務)も含まれます。これにより、亡くなった人の契約上の責任を相続人が引き継ぐ形になります。

具体例:相続される主な債務

  • 住宅ローン:団体信用生命保険が適用されなければ、残りのローンも相続人が負担。
  • クレジットカードの残債務:リボ払いや分割払いの未払い分が対象。
  • 消費者金融の借金:利息が高いため、相続後の負担が重くなる。
  • 保証債務:他人の借金の保証人になっていた場合、その責任も相続人に承継されます。

2. 借金がある場合の法定相続分と相続人の責任

相続財産の分割は、プラスの財産と同じように借金も法定相続分に応じて分割されます。複数の相続人がいる場合、各自が持ち分に応じた借金の支払い義務を負いますが、ここで重要なのが連帯責任です。

具体例:連帯責任によるトラブル

  • 被相続人が400万円の借金を残し、相続人が2人の場合:
  • 相続人AとBがそれぞれ200万円を負担します。
  • もしBが支払いを拒否した場合、債権者はAに対して400万円全額の返済を請求できます。Aは後からBに求償権を行使することができますが、実際に回収できるとは限りません。

3. 遺産分割協議で債務を調整することはできるか?

遺産分割協議の進め方

遺産分割協議では、財産だけでなく債務の分担割合も話し合うことが可能です。ただし、協議結果が債権者に対して効力を持つわけではありません。

記載例:遺産分割協議書での債務の記載

  • 「A銀行からの借入金300万円については、相続人Aが全額を負担する。」
  • 「相続人Bが不動産を取得する代わりに、すべての債務を引き受ける。」

債権者との交渉の重要性

協議で決まった負担割合を有効にするためには、債権者の同意を得る必要があります。これにより、特定の相続人が全額を負担する形にまとめることも可能です。

4. 債権者への対応:どう交渉を進めるべきか?

債権者の同意を得ることで、相続人間の負担調整がスムーズに進みます。

債権者との交渉のコツ

  1. 相続人全員での協議結果を提示する
  2. 返済計画を具体的に示す(分割払いなど)
  3. 専門家のサポートを受ける(弁護士や司法書士)

5. プラスの財産より借金が多い場合のリスクと対策

主なリスクと具体例

  • 自己破産の可能性:借金の総額が大きく、返済不能に陥る場合。
  • 差押えのリスク:相続した不動産が債権者によって差し押さえられる。
  • 親族間のトラブル:負担割合を巡って争いが発生するケース。

6. なぜ相続放棄が有効なのか?

相続放棄は、被相続人の財産と債務を一切引き継がないという法的手続きです。この選択肢は、借金を抱えるリスクを完全に避けたい場合に有効です。相続放棄を行うと、その人は初めから相続人ではなかったものとみなされます。

相続放棄が有効な理由

  1. 借金を完全に回避できる
    • 例:被相続人が1000万円の借金を残した場合でも、相続放棄をすれば一切の返済義務を負いません。
  2. 後から発覚する債務にも対応できる
    • 例:死亡後しばらく経ってから未払いの税金や保証債務が見つかった場合でも、放棄していれば責任はありません。
  3. 親族間のトラブルを回避できる
    • 相続人間で負債の押し付け合いが起こるリスクを未然に防ぎます。

相続放棄の注意点

  • 部分的な放棄はできない:プラスの財産だけを相続し、借金を放棄することはできません。
  • 3か月の期限がある:相続が始まったことを知った日から3か月以内に、家庭裁判所へ手続きを行う必要があります。
  • 一度放棄すると撤回できない:申請後に放棄を撤回することは基本的に認められていません。

Q&A:

Q:相続放棄は他の相続人に影響を与えますか?
A:放棄した人が相続人から外れることで、他の相続人の負担が増える可能性があります。たとえば、兄弟の一人が放棄すると、その分の負債が他の兄弟に割り当てられます。

7. なぜ限定承認が有効なのか?

限定承認は、被相続人の財産の範囲内でのみ債務を支払う手続きです。借金の額が明確でない場合や、プラスの財産も一部残したい場合に有効な選択肢です。

限定承認のメリット

  1. 財産を残しつつ借金を処理できる
    • 例:相続財産が100万円、不動産が1つ、借金が200万円の場合、100万円の財産と不動産を使って債務を清算し、それ以上の負担は免れます。
  2. 自己破産を避けられる
    • 借金の総額が財産を超えていても、それ以上の負債を負う心配がありません。
  3. 財産が余れば相続できる
    • 例:債務を清算した後に不動産が残った場合、その不動産を相続できます。

限定承認の注意点

  • 相続人全員の同意が必要:1人でも反対する相続人がいると、限定承認は成立しません。
  • 手続きが複雑で費用がかかる:家庭裁判所での手続きには専門家のサポートが必要になることが多く、弁護士費用などが発生します。
  • 期限は3か月以内:相続開始を知った日から3か月以内に申請しなければなりません。

8. 相続放棄・限定承認の判断基準と注意点

相続放棄と限定承認の比較

項目相続放棄限定承認
効果一切の財産・債務を放棄財産の範囲内で債務を支払う
メリット借金のリスクを完全に排除財産を残しつつ借金を処理
デメリットプラスの財産も放棄しなければならない手続きが複雑で費用がかかる
必要な同意不要相続人全員の同意が必要
申請期限3か月以内3か月以内

判断基準:どちらを選ぶべきか?

  • 財産より借金が多い場合相続放棄が適切
  • 不動産などを残したい場合限定承認を検討
  • 相続人間で協力できる場合限定承認が有効

まとめ

借金を含む遺産相続では、迅速かつ慎重な判断が求められます。相続放棄をすることで借金のリスクを完全に回避できますが、プラスの財産も同時に手放さなければなりません。一方、限定承認を選べば、財産を残しつつ債務を処理できますが、手続きには時間と費用がかかります。

いずれにしても、期限内に正しい手続きを行うことが重要です。親族間での話し合いや専門家の助言を活用し、最善の選択をしてください。特に、債務が多い場合や、将来のリスクを避けたい場合は、相続開始後早めの対応が求められます。

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