1. 遺産分割協議がもめる主な原因とは?
遺産分割協議でトラブルが発生する原因には、相続人間での意見の相違や相続の手続きに関する誤解、または被相続人の財産内容に関する知識の不足などが多くあります。まずは、よくある相続トラブルの原因を具体例とともに詳しく見ていきましょう。
相続財産の大半が不動産で、分割できる現金が少ない場合
相続財産のほとんどが不動産で、現金が少ない場合、財産の分割が難しく、相続人間でトラブルが生じやすくなります。不動産は現金のように分割が容易でないため、売却して現金化するか、特定の相続人が不動産を取得して他の相続人に代償金を支払うといった方法が必要になります。
事例
Aさんが亡くなり、相続人である長男Bさんと次男Cさんの間で遺産分割協議が行われました。Aさんの遺産の大部分は自宅の不動産で、現金がほとんどありません。長男Bさんは「自宅は自分が取得し、次男Cさんには代償金を支払う」と主張しましたが、Cさんは「不動産を売却して現金で分割するべきだ」と考えました。意見が合わず協議が難航し、最終的には家庭裁判所での調停に持ち込まれることとなりました。
対策 こうしたトラブルを避けるためには、相続開始前に被相続人が財産の分割方法を事前に決めておくことが重要です。具体的には、遺言書に不動産の分配方法を明記したり、不動産を売却して現金化する準備をしておくと、相続人間の争いを避けることができます。
財産目録の不備や不正確さ
相続財産の全容が不明確な場合、遺産分割協議が円滑に進まず、相続人間で不信感が生まれることがあります。被相続人が財産目録を正確に残していない場合、相続人が全財産を把握できず、疑念や不安が生じやすくなるためです。
事例
Bさんが亡くなった後、相続人のCさんとDさんはBさんの財産目録が存在しないことに気付き、口座や不動産を調べることから始めました。調査の結果、多くの預金口座が見つかりましたが、残高が少なく、それぞれの銀行に問い合わせる必要がありました。「もしかすると他にも隠し財産があるのではないか」といった疑念が生じ、兄弟間で不信感が高まりました。
対策 こうしたトラブルを避けるため、被相続人が生前に財産目録を作成し、相続人が全体の財産を把握できるようにしておくことが重要です。また、財産目録には、不動産や現金のみならず、株式、負債なども正確に記載しておくと、相続人の混乱や不信を防ぐことができます。
相続財産が予想以上に多い、または少ない場合
相続財産が相続人の想定を超えて多い、または少ない場合、遺産分割協議において不満や疑念が生じることが多くあります。特に、財産が少ない場合には、遺産を公平に分配する方法が限られてしまい、相続人が納得できる分割が難しいことがよくあります。
事例
Eさんが亡くなり、相続人であるFさんとGさんが遺産分割協議を行った際、思ったよりも遺産が少ないことが判明しました。特にGさんは「もっと相続できると期待していた」として不満を抱き、遺産分割の方法をめぐってFさんと意見が対立しました。このように、相続財産の額が期待より少ないと、相続人間で不満が生じやすくなります。
対策 相続開始前に被相続人が財産の内容や額を相続人に伝えておくことで、予期せぬ誤解を防ぐことができます。相続財産が多い場合や少ない場合に備えて、事前に話し合いの機会を設けておくのも、円満な相続のためには重要です。
特定の相続人への多額の生前贈与
被相続人が生前に特定の相続人に多額の贈与を行っていた場合、ほかの相続人が不公平を感じてトラブルとなることがあります。このような場合、生前贈与を受けた相続人がその分の遺産を返還するか、遺産分割時に考慮するなどの対応が求められます。
事例
Hさんが生前、長男Iさんに事業資金として1,000万円を贈与していたことが、Hさんの死後に判明しました。次男Jさんは「長男Iさんには既に十分な額が渡っているため、相続分を減らすべきだ」と主張しましたが、Iさんは「これは既に受け取ったものであり、相続分とは関係ない」と反論。こうして、兄弟間で争いが生じ、遺産分割協議がこじれました。
対策 被相続人は、相続人間の公平感を保つために、生前贈与を行った際にその内容を明確に記録し、遺言書で分割方法を指定しておくと良いでしょう。また、相続人間で話し合いを持ち、過去の贈与に関する取り決めを事前に決めておくことも効果的です。
複雑な家族構成による影響
再婚相手や養子、非嫡出子がいる場合、法定相続人の範囲や遺産の分配方法が複雑化し、トラブルの原因となることがあります。たとえば、後妻や先妻の子供がいる場合、相続人それぞれが異なる主張を持つことが多く、協議が進みにくくなることが一般的です。
事例
被相続人Kさんには、後妻Lさんと先妻の子供であるMさんがいました。Kさんの死後、Lさんが「自分の取り分は法的に保障されている」と主張する一方で、Mさんは「父の財産は先妻の子供である自分たちが優先的に受け取るべき」と考えました。意見が合わず協議が進まず、結果として相続トラブルが発生しました。
対策 被相続人が遺言書を作成し、財産の分割について明確に指示を残しておくと、こうした争いを防ぐことができます。また、相続人が法定相続割合や遺留分の基本を理解しておくことも重要です。家族構成が複雑な場合、弁護士や司法書士などの専門家を交えた話し合いを行うことで、協議がスムーズに進むことがあります。
相続に関する誤解が原因でのトラブル
相続に関する知識不足から、自分の権利や取り分を過大に主張する相続人がいると、遺産分割協議が進みにくくなります。法律上の規定を誤解したまま協議に臨むと、各自が根拠のない主張を続け、相続人間で不信感が高まる原因となります。
事例
Nさんの相続協議に参加した相続人Oさんが、「自分には遺留分以上の取り分がある」と誤解して主張し続けたため、他の相続人との話し合いが進みませんでした。Oさんは遺留分と法定相続分の区別がつかず、不満を抱えたまま協議を続けたことで、協議は泥沼化しました。
対策 相続に関する基本的な知識は、相続人全員が把握しておくと良いでしょう。遺産分割協議の前に、法定相続割合や遺留分の理解を共有し、必要であれば専門家に説明してもらうと、話し合いが円滑に進む可能性が高まります。
2. 円満な相続のための準備と進め方
相続トラブルを避けるためには、事前の準備がとても重要です。次に、スムーズに協議を進めるための準備と進行方法を見ていきましょう。
財産目録の作成と確認
財産目録の作成は、相続財産の全体像を把握し、相続人間の疑念や誤解を未然に防ぐための第一歩です。財産目録には不動産や現金のほか、株式、負債、動産なども含め、すべての財産を正確に記載することが求められます。
具体的な作成方法
- 不動産:固定資産税評価額や登記情報、所在地。
- 預貯金:口座名、金融機関、残高。
- 有価証券:株式、債券の銘柄や評価額。
- 動産:自動車や骨董品、貴金属など。
- 負債:借入金やローン残高、未払金。
まとめ
遺産相続でトラブルを防ぐためには、事前の準備や整理が重要です。円満な相続を実現するためには、財産目録の作成や相続割合の確認、専門家のサポートを活用することが必要です。また、親族間での譲歩の姿勢も相続協議を円滑に進めるための重要な要素となります。